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脱毛症

抜毛症の治療って何をするの?患者と周囲が出来ることとは

発症年齢も幅広く、小学校低学年から高齢者層にも発症し、男女差もそれほど大きくはありません。つまり、誰がいつ発症してもおかしくはない病気です。

「自分の毛を自分で大量に抜いている」という状態に危機感や恐怖感、羞恥心を抱いている方は少なくありませんし、お身内やお友達にそのような症状があるという周囲の方も、ご本人と同じくらいの感情負荷を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。

抜毛症の治療にはどうすればいいのか、どんな治療法があるのか。また、ご自身やご家族が出来る抜毛症対策や協力とは何なのか、客観的に情報を仕入れてみましょう。もしかしたら疾病を治すヒントが見つかるかもしれません。

抜毛症を治療したい!何科に行けばいいの?

先述した通り、抜毛症は「病気」のひとつです。患者本人の希望や願望で起こるものではなく、なにがしかの原因があって発症しているものですので、まずは専門の知識をもつ医師の診断が大切です。

▼抜毛症の原因を知りたい方はコチラを参考にしてください!

抜毛症の原因の記事のトップ画像キャプチャ

精神科

抜毛症である、あるいはその疑いがある場合、まずは心の疾病の専門である精神科の受診が推奨されます。ちなみに精神科と神経科、精神神経科は基本的には同じ診療科目です。

近年は心の病の幅が拡大しているため、多くの市区町村で総合病院の中に精神科を開設する動きも見られます。しかし、人手不足などの影響により精神科医はまだ十分ではなく、初診までに時間がかかる場合も残念ながらあります。

まずはお住いの近くに精神科医がいるかどうか、抜毛症について診察してもらえるかどうかを確認しましょう。

市区町村によっては保健センターや児童心理センターなどで、専門医を紹介している場合もあります。自力で見つけるのが難しいという人は、そうした行政窓口に問い合わせをしても良いでしょう。

心療内科・メンタルクリニック

精神科とほぼ同じ機関ではありますが、心療内科やメンタルクリニックは主に「身体的症状を伴う精神的疾患」を診てくれるところです。

ストレスによって喘息発作が起きたり、内科的症状(胃炎や頭痛)とともに精神的症状(落ち込みや不安など)が起きる、という患者さんに対応してくれます。逆に、幻聴、被害妄想、などの「身体的症状が無い場合」には精神科の診療領域となります。

抜毛症の場合、精神的症状と身体的症状(抜毛癖)が併発している患者さんが多いために、心療内科やメンタルクリニックでも対応出来る医師が増えています。

精神科が近くにない場合や、いきなり精神科に行くのは抵抗がある…といった場合にも適切な対処策を教えてくれますので、治療への第一歩として診察を受けるのも良いかもしれませんね。

皮膚科

結論から申し上げますと、皮膚科で「抜毛症の根本的治療が行える」わけではありません。

抜毛症は自分の意思のコントロールが効かなくなって体毛を抜いてしまうわけですから、皮膚に問題があるわけではないのです。

ただ、皮膚科医であれば脱毛斑(毛が抜けた跡)を見れば「脱毛症」なのか「抜毛症」なのかの判別がすぐに出来ますし、抜毛症だと思ったけれど、円形脱毛症だった…というそもそもの疾患の勘違いを防ぐことが可能です。

また、抜毛症は強い力によって体毛を引き抜くため、頭皮や毛穴周囲の皮膚には慢性的に炎症が生じています。そこから細菌感染を起こし、更に脱毛状態が進む、かゆみや痛み、傷口が出来る、という人もいます。

精神科や心療内科と連携し、「皮膚の状態を不快感がないように整える」という別角度からの治療アプローチも、皮膚科であれば行えるのです。東京都内の大学病院などでは、皮膚科医と精神科医が合同で「脱毛・抜毛外来」を作っているところもあります。

抜毛症の治療は何をするの?

病院に受診してからの流れについては、患者さんの状態や医師の判断により変化しますので千差万別のパターンがあります。ここでは代表的な抜毛症治療の方法についてピックアップしてみます。

カウンセリング

抜毛症を始め、多くの精神的疾患には色々な原因があります。

  • 遺伝や体質
  • 家庭環境や周辺環境のストレス
  • 習慣性、突発性などの判別
  • 自律神経失調など別の疾病の併発や判別

こうした内容の中には、患者やその家族からの訴えだけでは確定出来ない要素も多くあるため、まずはしっかりとしたカウンセリングを行い、患者が抱える症状の根本原因となり得る要素をピックアップします。

カウンセリングの方法以外も多岐にわたり、医師が必要と感じた手段を組み合わせて行います。

  • 対話カウンセリング
  • ロールシャッハ・テストなどの心理検査
  • 発達検査や認知機能検査
  • アレルギー検査(投薬がある場合に必要となることがあるため)

よく思い違いを起こしてしまう方が多いのですが、こうした精神的な疾病である場合、原因や解決策が見つかるまでに時間がかかることもあります。何度かカウンセリングや検査を繰り返すことで、患者と医師の間に信頼関係が生まれてから判明する事実もあるためです。

「今日行って、明日に治る」とは思わず、短期間だとしても半年はかかる病気だと考えじっくりとお医者さんと一緒に取り組みましょう。

お薬の処方

抜毛症はその病気を発症する原因が未だ不明確です。

風邪や胃炎のように、「この細胞のこの部分に異変が起こっている」という病気ではないため、その症状に対して効果的な薬物も明確には確立していません。

ただ、うつ症状や強迫性障害などに用いられる抗うつ薬、SSRIという種別のお薬に効果があったという報告が多数あり、第一薬として処方するという医師も多いようです。

幸せや満足感を得るために必要な「セロトニン」という物質を増やす、セロトニン吸収に関わる作用をコントロールするためのお薬で、比較的副作用が少ないとされています。

SSRIに分類されるお薬は以下のようなものがあります。

  • パキシル(パロキセチン)
  • レクサプロ(エスシタロプラム)
  • ジェイゾロフト(セルトラリン)
  • ルボックス(フルボキサミン)

服用初期の頃に、胃腸の軽い違和感(軟便や吐き気など)、眠気、性機能障害が起こる場合がありますが、ほとんどの場合体が慣れると次第に落ち着いていくようです。

ただし、医師の指導外で急に薬の服用をやめたりすると離脱症状が出る場合がありますので、必ず医師の指導管理の元で服用して下さい。

認知行動療法

名前はなんとなく聞いたことがある…という人も多いと思いますが、最近多くの「心の疾病」と呼ばれる症状の治療・緩和に用いられているのがこの「認知行動療法」です。抜毛症や咬爪症などの症状の治療にも活躍しています。

認知行動療法とは、あるきっかけで人の脳裏に浮かぶ感情や考え(自動認知)を修正し、ストレスを軽減させ活力を作り出す心理療法のひとつです。

例えば、「特技がない自分は価値がない」という自動認知を「特技がないということは、これから増やせる余力が沢山残っている」という考えに上書きできるようにします。

「こんな失敗をした自分はダメな人間だ」という自動認知を「次の失敗を防ぐためのワンステップだ」と前向きに捉えられる、その訓練をするのが認知療法です。

抜毛症で言えば、「髪を抜く自分はダメだ」「恥ずかしい」「ツライ、苦しい」という精神健康状態に悪影響を及ぼす自動認知、感情を上書き修正出来るように訓練するということになります。

その手法も色々あり、カウンセリング主体で進める医師もいれば、ノートをつける、活動を加えるなどの行動を日常に付加する医師もいます。どのような認知行動療法が適しているか、それは患者さんの個性によっても大きく変わります。

自分や家族の協力で出来ることはある?

「お医者さんにかかったのだから、自分や家族ではもう何もすることはない」というわけではありません。

医師が直接診察、指導するのは多くても週に1,2回であることが多いですし、医師に見てもらわない日に発作が起こることも十分にあり得ます。

医師の診察、指導と同時並行で、日常生活の中で少しずつ自分なり、家族なりに対策や予防策を打つことも、解決への近道に繋がります。

抜毛症には2タイプが存在する

まず、自分や家族に抜毛癖がある…となったら、医師とともに「どちらのタイプの抜毛症なのか」を判別、理解しましょう。抜毛症には主に2つのタイプがあります。

無意識タイプ
自我が育ちきっていない子供(2〜3歳頃)にも多いタイプです。自分で気が付かないままに大量に髪の毛をちぎってしまい、ふと我に帰ると手や足元に大量の抜け毛がありびっくりする…という特徴があります。

その他、人によっては食毛症(抜いた髪や体毛を食べてしまう)、異食症(食べ物ではないものを食べてしまう)といった症状を合併している場合もあります。

有識タイプ
自分で自分の髪や体毛を抜いている、ということがわかっている状態なのに「やめられない、止まらない」タイプです。大人になっても抜毛癖が残っている人にも多く、「もう少しだけ」「次でやめよう」と思っているのに手が止まらず、延々と抜いてしまうのです。

罪悪感も強く常につきまとうために「ストレスによる病気がストレスになっている」状態のループから抜け出せないつらい状態に陥る人も多くいます。

基本的にどちらのタイプであっても治療法が大きく変わるわけではありませんが、予防策は少し異なってきます。ただし、どちらのタイプであるか自己診断はせず、医師と確認しながら次のステップに進みましょう。

帽子やウィッグを被る

有・無意識どちらのタイプであっても有効なのが「毛髪に指が触れない様にしておく」ことです。

抜毛癖の患者さんはそのほとんどが「感覚」を拠り所にしています。

  • 毛髪を引っ張った時に起こる地肌への刺激
  • 髪が抜ける時の反動(ぷちっという刺激)
  • 指に伝わる感触
  • 抜き去ったあとの毛穴の開放感、爽快感、軽い痛み

指に毛髪が触れると一気にこのような「自分にとっての快感の感覚」が脳に呼び起こされ、欲求が沸いてしまいます。まずはこの引き金となる「毛の感触」を遠ざけるのです。

帽子やウィッグであれば、このような感触の予防につながる他、すでに出来てしまった脱毛斑を目につきにくくするため、無用なコンプレックスや罪悪感を軽減させる効果にも期待が出来ます。

太めのヘアターバンを巻く

ウィッグや帽子と同様の手法ですが、現代の流行に合わせてターバンにするという患者さんの体験談も多くありました。

最近は太めのヘアターバンを帽子のように、眉上から耳を覆い隠す感じで巻いている若い人も多いですよね。色味や柄で個性を演出出来ますし、ファッションに合わせて変えるのも良いでしょう。

抜毛症などの心の負担を抱える人ほど、オシャレや美容にこだわることがストレス解消、問題解決に繋がる場合もあります。夢中になれそうなオシャレがあったら、どんどんチャレンジして下さいね。

手袋で手指をガード

「体毛を感じる」「体毛を抜く動作をする」のは手や指です。

頭皮を覆ってガードしても効果がない、帽子やターバンは不快、という人は手袋や指サック、絆創膏などで「指先の感触」をシャットアウトしてみて下さい。

人間の指先の神経は非常に発達していて、髪の毛1本の刺激でも敏感に感じ取ることが出来ます。頭皮をガードしても指先に毛の感触を感じることで欲求が呼び起こされてしまう人もいますので、こうした指先への工夫も大切です。

欲求が湧いたら体を動かす、何かを食べる

有識タイプの人に有効なのが、この「注意をそらす」方法です。

人間の集中力は複数のポイントに分散させることには向いていません。基本的には1点、多くて2点程度が限界ですし、「止めたい」欲求であれば他に幸せを感じる行動にシフトチェンジできれば6〜8割は止められます。

飴を口にする、水を飲む、など直接脳と舌や唇に刺激を感じる行動は特に幼児期、小児期などには有効と考えられています。

思春期過ぎの場合は音楽を聞く、歌を歌う、お風呂に入る、ノートをつける…自分が好む行動ならなんでもOKです。軽い運動をして神経細胞を活性化させるのも良いでしょう。

注意したいのは「嫌いなこと」はしないようにして下さい。

抜毛欲求は主にストレス、嫌な状態から自己を避難させるために起こる防衛本能のようなものです。この時に更に嫌な行動をしてもストレスが増加するだけで、欲求を止めることには向いていません。

無意識タイプの人の場合、気がついたらすぐに注意をそらしてあげましょう。飴を手渡す、肩や首をマッサージしてあげる、楽しい話題を振ってあげるなど、周囲の人にとってもストレスにならない方法を見つけてみて下さい。

自分、家族のその行動を「責めない」

家族、友人、恋人に抜毛癖があって、なんとかしてそれを止めてあげたい…そう考えている時、目の前で髪を抜いてしまう患者さんを見たらあなたはどうしますか?

「やめなさい」「どうしてそんなことをするの?」…ついそんな言葉が口をついてしまうのではないでしょうか。

それは全く無理のない話です。自分で自分の体をいじめているようにしか見えない人もいますし、第三者の目を恐れる人もいるでしょう。なんとかしてやめさせたいと思っているのに叶わないという苛立ちもあるかもしれません。

ですが、患者さんも患者さんの周囲の方も、決して「誰も悪くありません」。

患者さん本人はやめたいと思っていても止まらないという状態に苦しんでいますが、望んで髪をぶちぶちと引き抜いているわけではありません。理解を得られず、共感も得られず、常に孤独と恐怖に向き合っている状態です。

患者さんの周囲の方は止めてあげたいのに力が及ばないと焦燥感にかられているでしょうが、心の病気は一朝一夕に治ることはまずありません。そして、その病気にかかったのは誰のせいでもありません。色々な要因が複雑に絡み合った【結果】だと考えて下さい。

病は責められるべきものではありませんよね。誰だってかかるかもしれないものです。抜毛癖、抜毛症もそうした病のひとつです。

患者本人も、その家族、友人も、誰一人責められるべき人はいないのです。

治療は「家族で」受ける

抜毛症に限らず、心や精神の病を抱えた患者さんのそばにいる人は多かれ少なかれ「ストレス、疲労」を感じます。

  • 治してあげられないもどかしさ
  • 見た目の変化への恐怖感、違和感
  • 予防したいがために付随する日常的な負荷(監視してしまうなど)
  • 患者本人のストレスへの共感、共鳴

また、そもそも心の病の原因が家族関係に生じていたり、友人関係に生じていたりする場合も多くあります。根本的な解決のために、医師という第三者の治療行為が必要になるケースも多いのです。

治療は患者本人だけではなく、家族にも必要なものだという感覚を忘れないでください。

同じ医師にかかる必要もありません。一緒にカウンセリングを受け無くてはならないということでもありません。患者とは別に、家族であるあなたも「癒し」が必要なのです。

乗り越え方は人それぞれ。正解にたどり着かなくてOK

抜毛症の症状を治療する、という視点で色々な体験談、体験例、臨床例に目を通しましたが、そこから得た共通の結果として「正解はない」というものがありました。

人には個性があります。好きなものも嫌いなものも違いますし、育ち方、考え方、ストレスを感じる原因も幸せを感じるきっかけもみんな違います。それ故に、心のストレスを解消していく方法も千差万別であり、正解はひとつではありえないのです。

「治療をしたい」と願ってやまなかった患者さんが、ある日「もう治らなくていい、自分はこのままで良い」と感じた途端、とても気が楽に、毎日を楽しく過ごせるようになった、という体験例もありました。

子供の頃から治らなかった抜毛症を、より多くの人に知ってもらおうと啓蒙活動に転換し、精力的に様々な場に出ている患者さんもいます。

気がついたら治っていたけど、何も特別な治療はしなかった、という人も多くいます。

正解は無くて良いのです。また、たどり着かなくても良いのです。

自分を追い詰め、責め、傷つける行為でなければ良いのだ、というように考え、少し肩の力を抜いて「一歩」いえ「数ミリ」ずつ明るい未来を見つめられる訓練をしてみませんか。

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